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LMIに基づく制御のためのツール

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本記事では、シュールの補題、変数消去法、MATLABコード例を用いた実践的な実装など、いくつかの高度なLMIテクニックについて探求します。

LMIの基礎的な話は以下にまとめています。

線形行列不等式を用いた制御器設計 - 制御工学ブログ

 

シュールの補題:LMI問題の重要なツール

シュールの補題は、非線形行列不等式を等価なLMI形式に再定式化するための手法です。以下の非線形行列不等式を考えてみましょう:

\begin{equation} \left[\begin{array}{cc} Q(x) & S(x) \\ S(x)^T & R(x)\end{array}\right] \gt 0 \end{equation}

ここで Q(x) S(x)、および R(x)は変数 xのアフィン行列関数です。 R(x) \gt 0であれば、シュールの補題によれば、この不等式は以下と等価です:

\begin{equation} R(x) \gt 0, \quad Q(x) - S(x)R(x)^{-1}S(x)^T \gt 0 \end{equation}

しかし、2番目の条件には R(x)^{-1}が含まれており、これはアフィン関数ではありません。シュールの補題により、これをLMI形式に変換することができます:

\begin{equation} \left[\begin{array}{cc} Q(x) & S(x) \\ S(x)^T & R(x)\end{array} \right] \gt 0 \Leftrightarrow \begin{cases} R(x) \gt 0 \\ Q(x) - S(x)R(x)^{-1}S(x)^T \gt 0 \end{cases} \end{equation}

この等価性は、最適化問題をLMI形式に再定式化する上で非常に有用です。例えば、前回の記事では、 Z^T Zという項が出てきましたが、これはシュールの補題を使って線形化することができます。

参考文献

LMI問題における変数消去

制御設計では、主要な関心変数に関するLMIを得るために消去する必要がある行列変数に遭遇することがよくあります。消去補題(射影補題とも呼ばれる)は、この目的に特に有用です。

以下のLMI問題を考えます:

\begin{equation} \Psi + M \Theta N^T + N \Theta^T M^T \lt 0 \end{equation}

ここで \Psi, M, Nは既知の行列で、 \Thetaは消去したい変数行列です。消去補題によれば、不等式が成立するような \Thetaが存在するための必要十分条件は次式となります。

\begin{equation} W_M^T \Psi W_M \lt 0 \text{ and } W_N^T \Psi W_N \lt 0 \end{equation}

ここで W_M W_Nは、それぞれ M^T N^TのNull空間の基底を形成する列を持つ行列です。

この補題は、解くことができるLMI定式化を得るためにコントローラ変数を消去する必要がある場合が多いコントローラ合成問題で特に有用です。

参考文献

関連する数学的概念については、以下も興味深いかもしれません:

多目的制御のためのS変数アプローチ

複数の目的を含むより複雑な制御問題に対しては、S変数アプローチが有用です。このアプローチでは、双線形行列不等式(BMI)をLMIに変換するために追加変数を導入します。

同時に以下を達成したい状態フィードバック制御問題は次のようなものが与えられます。詳細は参考文献をご覧ください。

  •  H_\infty性能境界
  • 特定の領域内での極配置
  • 入力制約の満足

参考文献

S変数アプローチは、多目的制御のさまざまな範囲の問題に対処するための強力なツールであることが示されています。特に最初の文献に詳しく記載されています。

周波数領域仕様のための一般化KYP補題

一般化KYP補題により、すべての周波数ではなく特定の周波数範囲で制御要件を指定することができます。これは、的を絞ったコントローラ設計に特に有用です。

周波数区間 [\omega_1, \omega_2] に対して、以下のLMIを使用して周波数領域制約を表現できます。

一般化KYP補題に関する参考文献

ポリトープ型不確かさを持つロバスト制御

システムパラメータが不確かであるが多面体内に限定される場合、LMIを使用してロバストコントローラを設計できます。多面体不確かさを持つシステムを考えてみましょう:

\begin{equation}  \dot{x} = A(\lambda)x + B(\lambda)u \end{equation}

ここで A(\lambda) = \sum_{i=1}^L \lambda_i A_iおよび B(\lambda) = \sum_{i=1}^L \lambda_i B_i \sum_{i=1}^L \lambda_i = 1 \lambda_i \geq 0です。

参考文献

LMIを用いた動的出力フィードバック

状態フィードバックが不可能な場合、LMIを使用して動的出力フィードバックコントローラを設計できます。これは特定のLMIを満たす行列 P Q X Y、および Zを見つけることを含みます:

LMIを用いた動的出力フィードバック制御に関する主要参考文献

最近のアプローチ

結論

本記事では、非線形制約をLMIに変換するためのシュアの補題、複雑な問題を簡略化するための変数消去、様々な制御目標のための実践的な実装など、制御システム設計におけるLMIの使用に関するいくつかの高度な技術を探求しました。

LMIの数学的エレガンスと効率的な数値ソルバーの組み合わせは、現代の制御工学における非常に強力なツールになります。制御問題をLMIとして定式化することで、複数の設計目標と制約を同時に体系的に対処でき、証明された性能保証を持つコントローラが導かれます。

さらなる探求のために、提供されたMATLABコード例を実験し、特定の制御問題に適応させることをお勧めします。LMIの汎用性は、それらがさまざまな領域にわたる幅広い制御課題に適用できることを意味します。

参考文献

  1. Boyd, S., El Ghaoui, L., Feron, E., and Balakrishnan, V. (1994). "Linear Matrix Inequalities in System and Control Theory." SIAM Studies in Applied Mathematics.
  2. Scherer, C., and Weiland, S. (2000). "Linear Matrix Inequalities in Control." Lecture Notes, Dutch Institute for Systems and Control.
  3. Chilali, M., and Gahinet, P. (1996). "H∞ design with pole placement constraints: an LMI approach."IEEE Transactions on Automatic Control, 41(3), 358-367.
  4. Iwasaki, T., and Hara, S. (2005). "Generalized KYP lemma: unified frequency domain inequalities with design applications."IEEE Transactions on Automatic Control, 50(1), 41-59.

ソフトウェアツール

多目的LMI問題を解くためのいくつかのソフトウェアツールが利用可能です:

  • YALMIP - 最適化問題モデリングと解法のためのMATLABツールボックスで、LMI問題に対する優れたサポートを提供しています。
  • SeDuMi - 線形、二次、および半正定値制約のある問題を解くための人気のある最適化パッケージ。
  • MATLAB Robust Control Toolbox - LMIベースのアプローチを用いて不確かなパラメータを持つシステム用のコントローラを設計するためのツールを提供します。
  • Rcsdp - MATLABよりもRを好むユーザー向けのCSDP半正定値プログラミングライブラリへのRインターフェース。
  • CVXOPT - LMI問題を扱うことができる凸最適化のためのPythonパッケージ。

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