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線形行列不等式を用いた制御器設計

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本記事では,線形行列不等式を用いた制御器設計について述べます。線形行列不等式を用いた設計法は制御工学において非常に有益なツールとして知られています。

以下の解説記事でMATLABを用いた線形行列不等式に基づく制御器設計について説明をしており,それを抜粋したものになります。

www.jstage.jst.go.jp

執筆者情報:岡島 寛 (熊本大学工学部情報電気工学科准教授,Web, YouTube)約20年教員をやっています。モデル誤差抑制補償器,状態推定,量子化制御など制御工学の研究をしています。

線形行列不等式と制御系設計

線形行列不等式(Linear Matrix Inequality, LMI)を用いた手法は,制御工学分野における最も強力な制御器(コントローラ)の設計手法の一つです。LMIを使った制御器設計の有用性は以下に挙げられます。

  • 様々な設計仕様や制約条件がLMIで表現可能
  • LMIを用いて定式化された問題は効率的な凸最適化アルゴリズムによって正確に求解することができる
  • 複数の制約や目的を持つ問題を扱いやすい

これら3つの特徴により,様々なタイプの制御問題がLMI問題として定式化され,それによって制御器のパラメータがLMI問題の求解により導出されます。ここではまずはLMIについて説明します。与えられた n\times nの対称行列 Xについて, X>  0 Xが正定であることを意味します。このとき,任意の(非零)実ベクトル \xi \in R^{n\times 1}に対して \xi^T X \xiの値が必ず正の値となります。他方, X\geq 0は半正定, X<  0は負定を意味します。 \xi^T X \xiの値が正にも負にもなりうるような X不定と呼びます。また, X>  0 X<  0 X\geq 0などを行列不等式と呼びます。ここでさらに,対称行列 X_i = X_i^T (i = 0,\cdots,N) N次ベクトル変数 x = \left(x_1,\cdots,x_N\right)によって定義される以下の行列値関数を考えます.

\begin{equation}X(x)=X_0 + X_1 x_1 + \cdots + X_N x_N\end{equation}

このとき, X(x)は変数 xに関するアファイン関数であり, X(x)>  0 X(x)\geq 0などがLMIとなります。ここでは,この不等式条件を満たす xを見つける問題を取り扱います。特に制御器パラメータの設計においてはある指標(評価関数値)を最適にするような問題を扱うことから,これに関連して以下の問題を考えます。
\begin{equation} \min c^T x \, \mathrm{s.t.}\, X(x) \geq 0\end{equation}
上述の定式化は,半正定値計画問題と呼ばれ,可解なタイプの問題設定であれば大域的な最適解を求めることが可能な問題です。この問題は, X(x) \geq 0の制約を満足するような xの中で c^T xの値を最小とするような xを求める問題です。LMI問題は内点法を利用した求解アルゴリズムが提案されており,効率的に解を求めることができます(有用性2.)。

制御仕様や制御上の制約条件がLMIで記述できた場合,複数の制約条件を同時に考慮することは容易です。具体的には,2つの仕様 X_1(x)> 0および X_2(x)> 0が与えられたとき,次の1つの \bar X(x)に関するLMI条件にまとめられます。

\begin{equation}\bar X(x) := \left[\begin{array}{cc}X_1(x) & 0\\0&X_2(x)\end{array}\right] > 0 \end{equation}

また,等価な条件としてLMI条件は以下のように記述することもできます。

\begin{equation}-\left[\begin{array}{cc}X_1(x) & 0\\0&X_2(x)\end{array}\right] < 0 \end{equation}

ここでは2つの仕様が与えられた場合を考えましたが,より多く仕様が組み合わせられていても連立することが可能です(有用性3.)。制御では様々な設計仕様が与えられることが多く,LMIは制御器設計との親和性が高いです。

LMI問題の求解例

ここでは,一つの制御器設計例を用いてLMIによる設計の一連の流れについて述べます。

まず,制御対象は次のように連続時間の状態方程式として与えられます。
\begin{equation} \dot x = A x + B u + B_2 w\end{equation}

\begin{equation} y = Cx \end{equation}
 xは状態, uは制御入力, wは外乱, yが出力です。各行列は以下で与えられるものとします。
\begin{equation} A = \left[\begin{array}{ccc}0&1&0\\0&0&1\\2 & -1.2&2.3\end{array}\right], B = \left[\begin{array}{c}0\\0\\1\end{array}\right],\end{equation}

\begin{equation}B_2 = \left[\begin{array}{c}5\\1\\-2\end{array}\right], C = \left[\begin{array}{ccc}-1&5&0\end{array}\right] \end{equation}
ここでは,外乱 wから yまでの L_2誘導ノルム( L_2ゲイン,次式)を最小化するような制御器 u = -K xを求める問題を考えます。
\begin{equation} \gamma_* = \sup_{w \in L_2} \frac{\|y\|_2}{\|w\|_2} \end{equation}
 \gamma_*は最悪ケースにおける外乱の影響を表しており, \gamma_*の値が小さければ外乱 wが出力 yに与える影響が小さいと言えます。
フィードバック制御を施すと上で設定した制御対象に制御器を含めた制御系は次のように記述されます。
\begin{equation} \dot x = (A-BK)x + B_2 w \\ y = (C - D_2 K)x \end{equation}
ここでこの問題をLMIを用いて最適化問題として定式化します。制御器 Kのパラメータを最適化するために次のLMIを満たす P \gt 0,および \gamma Zを求める問題を解きます。

ただし、 Z^T Zは変数積となりますが,Schurの補題によりLMIに変換できます。制御器 Kは次式により与えられます。

\begin{equation} K = ZP^{-1} \end{equation}

この最適化問題MATLABを用いることで効率よく求解できます。MATLABではLMIの求解をサポートするツールボックスが提供されており,問題を簡潔に記述し解を得ることが可能です。

LMIとして与えられる制御仕様

LMI条件として記述できる様々な制御仕様を紹介します。ここでは連続時間線形時不変系についての条件(有用性1.)に触れますが,離散時間系に関する制御仕様を表した様々なLMI条件も存在します。

  • 安定性・ロバスト安定性
  •  L_2誘導ノルム・ H_\inftyノルム・有界実性
  • 正実性
  •  H_2ノルム
  • インパルス応答のピーク値
  • 極配置

まず,制御系を構成する上で最も重要な性質として(1:)の安定性が挙げられます。安定性の条件はLMIとして記述されます。また,制御対象が不確かさを有する場合のロバスト安定性の条件もLMIとして記述されます。次に(2:)の L_2誘導ノルムに関するLMI条件は上述した不等式条件で与えられます。 H_\inftyノルムは L_2誘導ノルムに等しく, H_\inftyノルムは一入出力の場合には,ゲイン線図のピーク値を特徴付けています。(3:)の正実性は,位相に関する条件であり,これもLMIとして記述されます。(2:)の有界実性と併せてロバスト制御において重要な役割を果たすLMI条件です。

この他にも,(4:) H_2ノルムや,システムの入力がスカラの場合には(5:)のインパルス応答のピーク値などがLMI条件として記述されます。制御対象の極(6:)に関するLMI条件は,全ての極がある指定された領域内に入っているか否かを解析するためのLMI条件として与えられます。領域の設定においては,セクタ領域, \alpha-安定領域,円領域の組み合わせで表現されます。

以上のように,様々なタイプの制御仕様がLMI条件として与えられており,制御系の解析や設計において有用です。特に,(1:)から(3:)で与えられる条件はロバスト制御との親和性が非常に高く,LMIがロバスト制御において果たしてきた役割は大きいです。複数の制御仕様を満たすような制御器を設計する場合には,これらのLMI条件を連立して解くことになります。

ここで挙げた制御仕様の他にも,周波数帯域ごとに細かく設計するための枠組みとして,有限周波数に限定した周波数特性(正実性,有界実性)を与える一般化KYP補題がLMI条件として設定できます。

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